医療と介護で分かれていた契約書を、一本にまとめてみた — どこまで束ねられ、何は分けて残ったか
医療保険と介護保険で分かれてきた契約・重要事項説明・同意の文書を一本化しようとすると、制度と現場のどこがぶつかるのか。ある訪問看護事業所での試行の記録。
医療保険と介護保険で分かれてきた契約・重要事項説明・同意の文書は、どこまで一本化でき、何は分けて残さざるを得ないのか。
事業者情報など共通部分は束ねられるが、保険区分固有の記載と、介護側に省令明文がある文書同意は分離して残ると考えました。
統合の適法性を正面から認める明文は確認できず、利用者・家族の理解が実際に上がったかも、n=1では判断できていません。
これは「正解の様式」を配る記事ではありません。医療保険と介護保険で分かれてきた契約書類を一本化しようとしたとき、制度と現場のどこがぶつかるのかを、ある訪問看護事業所で確かめた記録です。n=1の試行であり、他の事業所にそのまま当てはまるものではありません。
なぜ契約書は2つあるのか
訪問看護を始めるとき、利用者と交わす書類は一式になっています。一般的な実務解説では、契約書、重要事項説明書、個人情報の取扱いに関する同意書あたりを、基本の組み合わせとして挙げるものが多いです。加えて、指示書や各種保険証、負担割合証の確認が入ります。
医療保険(訪問看護療養費)と介護保険(指定居宅サービス)の両方を提供している事業所では、この書類を保険種別ごとに分けて用意していることがあります。当ステーションもそうでした。
ここで先に確認しておきたいのは、分けていた運用には制度上の背景がある、という点です。
医療保険と介護保険では、そもそも根拠となる運営基準の省令が別系統になっています。介護側は「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)、医療側は「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年厚生省令第80号)です。計画の連動の仕方も違います。訪問看護はどちらの保険でも主治医の指示書を前提としますが、介護保険ではこれに加えて、居宅サービス計画(ケアプラン)に沿って訪問看護計画を立てます。医療保険では、主治医の指示書が計画の主たる起点になります。料金・加算の体系も別です。
適用の振り分けにも、枠組みがあります。要介護被保険者等については、原則として介護保険の訪問看護が優先し、医療保険の訪問看護は原則として算定しません。これは健康保険法第88条による訪問看護療養費の支給に、別表第七や給付調整の仕組みが重なって決まる枠組みで、単一の条文だけで決まるものではありません。例外として、厚生労働大臣が定める疾病等(別表第七)に該当する人、特別訪問看護指示書が交付されている期間、精神科訪問看護などは、医療保険の訪問看護になります。
注: 別表第七は「特掲診療料の施設基準等」(平成20年厚生労働省告示第63号)の別表第七で、内容は診療報酬改定ごとに改正されます。本稿執筆時点の現行は令和8年改定版(令和8年厚生労働省告示第71号による改正、令和8年6月1日適用)です。個別の疾病名は最新告示で確認してください。
根拠法令が違い、料金体系が違い、計画の連動先も違います。書類を分けて持っておけば、保険区分ごとの記載や料金説明を取り違えにくくなります。分けていた運用は、こうした条件の下では、無理のない選択でした。一方で、両方を提供している事業所では、同じ事業者情報や苦情窓口を二つの書類に重ねて書き、説明も重ねて行う場面が出てきます。この重複が見えてきたところが、今回の出発点でした。
問い — 一本化はどこまで可能か
問いはこうです。分かれてきた契約・重要事項説明・同意の文書を一本化(統合様式化)することは、制度上どこまで許容され、現場の運用として何が変わり、何は変えられないのか。
ここで気をつけたのは、論点を「事務の手間」だけに絞らないことでした。一本化は事務側の都合で進めやすいのですが、評価すべき軸は少なくとも三つあります。事務の重複が減るか。省令が求める説明・同意の義務を、一本化後も満たせるか。そして、利用者・家族にとって理解しやすくなるのか、それとも情報が一か所に詰め込まれて、かえって読みにくくなるのか。三つめは、事務の都合とは逆を向くこともあります。
仮説 — 何が減り、何は減らないと考えたか
試す前に立てた仮説は、二つでした。
一つめは、保険区分によらない共通部分(事業者の名称・所在地・連絡先、苦情・相談の窓口、緊急時対応など)は束ねられる、というものです。ここは重複が素直に減ります。
二つめは、保険区分に固有の記載(算定の根拠、自己負担の仕組み、提供するサービスの内容)は、医療と介護で別々に書き分ける必要が残る、というものです。ですから、一本の文書にまとめても、この部分の分量そのものは減りません。
同時に、反対側の仮説も置きました。
- 統合すると情報が1か所に集まり、利用者・家族には読む量が増えて、かえって分かりにくくなるかもしれません。
- 必要な記載が保険ごとに違う以上、統合様式は「1冊に綴じただけ」で、実質の分量も説明にかかる時間も減らないかもしれません。
- 保険適用が医療と介護を行き来する利用者では、1本にまとめたことで、再説明・再同意がかえって複雑になるかもしれません。
どちらの仮説が強く出るかを、実際にやって見てみることにしました。
試行 — 何を、どういう条件で変えたか
舞台は、医療保険と介護保険の両方で訪問看護を提供している、当ステーション一つです。
まず、効果を一般化しないために、条件を書いておきます。これらの値は、読者が自分の事業所と引き比べるための前提であって、他の事業所に当てはめる基準ではありません。
- 事業所の規模: 東京・埼玉で4拠点を運営し、利用者は合計で約500名弱、職員は約40名です。契約書を新たに交わすのは、月あたり30〜40件程度です。
- 医療保険と介護保険の利用者比率: おおむね4対6から5対5です。
- 見直しの時期: 契約書類の電子化そのものは約4年前から進めており、その過程で医療・介護の様式を一本化しました。
数値はいずれも自社の概数で、精緻な計測値ではありません。
設計の判断基準
設計にあたっては、仮説の切り分けを、そのまま基準にしました。共通部分は一か所にまとめ、保険区分に固有の部分は、文書の中で場合分けして書き分けます。義務として外せない記載は、一本化しても、必ず各保険の要件を満たす形で残します。
外せない記載として参照したのは、次の一次資料です。
- 介護側は、運営規程の概要・看護師等の勤務体制その他サービスの選択に資する重要事項を記した文書を交付して説明し、提供開始の同意を得る義務があります(省令37号第8条第1項。訪問看護には第74条の準用で適用)。重要事項の中身は、運営規程に定める事項(事業の目的・運営方針、職種・員数、営業日時、サービス内容・利用料、実施地域、緊急時対応、虐待防止措置等。省令37号第29条)が中核になります。
- 医療側も、ほぼ同文の重要事項説明・提供開始同意の義務が、明文で存在します(省令80号第5条)。「医療保険には重要事項説明の義務がない」というのは誤りで、骨格は介護と同等に存在します。利用料については、基本利用料とその他の利用料の内容・額をあらかじめ説明して同意を得る旨の、独立した明文が医療側にあります(省令80号第13条第3項)。介護側も利用料の説明義務がないわけではなく、重要事項(第8条・第29条)と利用料の受領規定(第66条)の組み合わせで担保される構造になっています。条文の置き方が違うだけで、どちらも説明は求められています。
- 個人情報の同意と、書面の電子交付については、医療と介護で省令の構造に違いがあります。介護側は、サービス担当者会議等で利用者や家族の個人情報を用いる場合に、あらかじめ文書で同意を得る義務が、省令に明記されています(省令37号第33条第3項。訪問看護には第74条準用)。重要事項を記した文書を電磁的方法で交付できる旨も、明文があります(同第8条第2項)。一方、医療側は、省令80号の全31条を確認しても、これらに相当する明文がありません。個人情報については秘密保持(第25条の守秘義務)が置かれるにとどまり、取扱いの同意は、主として個人情報保護法に依拠します。電子交付についても、省令本体に明文はありません。ただし、だからといって、医療保険で電子交付が「できない」と断定できるわけではありません(押印の見直しなど、実務上の電子化は進んでいます)。ここで言えるのは、省令本体に明記しているかどうかに、医療・介護で差がある、という構造の違いです。
この違いは、設計に直接効きました。個人情報の同意を統合文書の一か所にまとめる場合でも、介護保険の利用者については、第33条第3項が求める「文書による同意」の要件を満たす形を崩せません。束ねる・分けるの判断を、見た目の体裁ではなく、各省令の要件で決める必要がありました。
統合文書の中身
統合前は、医療と介護で書類が別々でした。それぞれ重要事項説明書と契約書の組で、各15枚弱。合計すると、約30枚になります。統合後は、医療・介護を1通にまとめ、全体で15〜16枚程度に、別紙の料金表を加えた構成にしました。
- 共通化した記載: 事業所の基本情報など、もともと両者で構成が同じだった部分です。
- 保険区分ごとに書き分けて残した記載: 料金、苦情対応の窓口などです。
料金まわりは、作り方を変えました。以前は想定しうる加算をすべて本文に書き込んでいたため、その利用者には該当しない加算まで載って、分量を押し上げていました。そこで、算定の可能性が高い加算を本文の中心に置き、頻度の低い加算は、後方の「参考料金表」に移しました。医療と介護には似た性格の加算(たとえば、介護の24時間対応体制加算と、医療の緊急時訪問看護加算)があり、説明が重なりやすい部分でもあります。
保険の切り替えへの備え方も、変わりました。保険が医療と介護を行き来する利用者では、以前は切り替わるたびに、その保険用の契約書で結び直していました(保険証の取り直しを含みます)。1通にまとめたことで、この結び直しの作業そのものがなくなりました。
料金の見せ方は、作ってはみたものの、現場に合わなかったものもあります。「結局いくらかかるのか」を先に知りたい、という声が多かったため、WEB側に概算の計算シートと印刷ボタンを用意しました。ただ、契約の説明自体をタブレットで行っているため、その場で別にWEBを開く動線は、使いにくいものでした。この計算シートは残しつつ、概算の合計額がその場で分かる欄を、重要事項説明書の側にも組み込みました。
結果 — 何が変わり、何が見えてきたか
先に、何がこの試行で確かめられて、何は確かめられないのかを、分けておきたいと思います。
仮説の二つめ(保険区分に固有の記載は分離が残る)は、実のところ、この試行で初めて分かったことではありません。医療・介護それぞれの省令が求める記載を満たそうとすれば、演繹的にそうならざるを得ません。つまり、これは制度要件からの帰結であって、n=1の試行が実証した所見ではありません。
ですから、試行が本当に検証対象にしたのは、別の二点です。ひとつは、共通部分を実際にどこまで束ねられたか。もうひとつは、束ねた結果として、事務・説明・利用者の理解に何が起きたか。以下はその観察です。ただし、時間や理解度のように、数値での計測を伴っていないものは、その旨を明記しました。
- 事務面: 保険が切り替わる利用者の契約の結び直しと、医療用・介護用の契約書の取り違えは、1通化によって、作業そのものがなくなりました。これは効果を測って分かったことというより、設計上そうなります。発生頻度は計測していませんが、スタッフの実感としても、結び直しは減りました。
- 説明面: 料金・加算の説明は、該当する加算を中心に置き直したことで、本文に載る分量を整理できました。保険区分に固有の記載(算定根拠・自己負担・サービス内容)の書き分けそのものは、設計どおり残っています。説明にかかる時間は、体系的には計測していません。
- 利用者・家族の反応: 契約は多くの場合、その人にとって一度きりの体験です。「楽になったか」を本人の前後比較で測るのは難しく、体系的な把握はしていません。
まとめると、この試行で確かに言えるのは、設計によって構造的に消えた手間がある、という点です。保険切替時の結び直しと、医療用・介護用の取り違えは、1通化で作業そのものがなくなりました。書類の枚数も、当ステーションの数え方で、合計約30枚から15〜16枚程度に減りました。一方で、事務や説明にかかる時間が実際に短くなったか、利用者・家族にとって分かりやすくなったかは、計測していないため言えません。効果の有無は、そこを測ってはじめて示せます。なお、一本化は「書類の数を減らす」こと自体が目的ではなく、共通部分の重複を一か所に寄せ、保険ごとの書き分けは文書の中で明示する、という設計です。その束ねる・分けるの一つひとつを、見た目の体裁ではなく、各省令の要件で決めた、という点は変わりません。
未解決 — 残った制約と、一般化できない点
残っている論点は、いくつもあります。
制度上、正面から「適法」と言い切れません。 契約書と重要事項説明書を1つの文書に統合することを、禁止する明文も、積極的に許容する明文も、一次資料の範囲では確認できませんでした(省令37号第8条・省令80号第5条のいずれにも、統合可否の規定はありません)。言えるのは「禁止する明文は確認できない。ただし、1文書にまとめる場合でも、医療・介護それぞれの必要記載事項と、各保険区分ごとの説明・同意の要件を、各々満たす必要がある」までで、「法が一本化を認めている」とは書けません。本稿の整理は国の省令をベースにしたもので、都道府県の指定様式や解釈通知によるローカルな運用差がありうる点も含め、各事業所で確認が必要です。
利用者・家族の理解への効果は、この試行では判断できません。 比較対象のある設計で測っていないため、統合で理解が上がったとは言えません。反対仮説(情報が1か所に集まって読みにくくなる)を、否定もできていません。
n=1です。 これは、両保険を提供する一事業所が、自分の利用者構成と書類構成の下で試した記録です。規模・地域・職種構成・医療と介護の利用者比率が変われば、束ねられる範囲も効き方も変わりえます。他の事業所に、そのまま当てはめられるものではありません。
同意の電子化は、別途の論点として残ります。 制度上は、書面の電磁的対応や押印の見直しが進んでいますが(令和3年の押印見直しの事務連絡など)、在宅の現場(高齢・独居・判断能力に不安のある利用者も含みます)での実運用がどの程度かを示すデータは、確認できていません。「制度上は可能、現場での普及は未知数」までが、いま言えることです。
なお、重要事項は、事業所内の掲示に加えて、ウェブサイトでの公表が義務づけられました。医療側は省令80号第24条第2項(令和6年厚生労働省令第35号で追加、令和6年6月1日施行、経過措置を経て令和7年6月1日に完全義務化)、介護側は省令37号第32条第3項(令和6年厚生労働省令第16号で追加、令和7年4月1日に完全義務化)で、完全義務化の時期が約2か月ずれます。これは「公表」の義務であって、「同意取得の電子化」とは別の論点です。混同しないよう付記しておきます。
この記事で未確認のまま残した点
- 契約書と重要事項説明書の一本化が制度上「適法」と言えるか。禁止する明文も、積極的に許容する明文も、一次資料では確認できていません。言えるのは「禁止する明文はない。ただし、1文書にまとめる場合でも、医療・介護それぞれの必要記載事項と、各保険区分ごとの説明・同意の要件を、各々満たす必要がある」までです。
- 契約書類の平均枚数、保険種別での統合/分離の普及率、利用者・家族の理解度の定量、在宅での電子同意の普及率(いずれも母集団付きのデータを確認できず、断定しません)。
- 全国的な業界団体による、医療・介護を統合したひな形や統一見解の有無(確認できていません)。
- 本文の自社の数値(枚数・比率・規模・契約件数)は、事業者が提供した概数であり、精緻な計測値ではありません(「約」「程度」で示しています)。
なお、医療・介護それぞれの重要事項説明・提供開始同意の義務、個人情報の文書同意と電磁的交付の省令構造の違い、ウェブサイト公表の義務化(施行時期を含む)は、省令の条文で確認しています(末尾の出典を参照してください)。
出典
Level 1が最も信頼度が高い- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第8条第1項・第2項、第29条、第32条第3項、第33条第3項、第66条、第74条介護保険側の重要事項説明・同意・電磁的交付・個人情報文書同意・ウェブ公表・利用料の根拠 Level 1:法令・告示・公的統計
- 指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年厚生省令第80号)第5条・第13条・第24条第2項・第25条医療保険側の重要事項説明・同意・利用料・守秘義務・ウェブ公表の根拠。全31条を精査し個人情報文書同意・電磁的交付の明文がないことを確認 Level 1:法令・告示・公的統計
- 健康保険法 第88条(訪問看護療養費の支給) Level 1:法令・告示・公的統計
- 特掲診療料の施設基準等(平成20年厚生労働省告示第63号)別表第七改定ごとに改正。現行は令和8年改定版(令和8年厚生労働省告示第71号、令和8年6月1日適用) Level 1:法令・告示・公的統計
- 近畿厚生局「訪問看護療養費の取扱いの理解のために」(給付調整・介護優先の整理) Level 1:法令・告示・公的統計
- 令和6年厚生労働省令第35号(医療側のウェブ公表義務ほか。令和6年6月1日施行、完全義務化令和7年6月1日)/令和6年厚生労働省令第16号(介護側。完全義務化令和7年4月1日) Level 1:法令・告示・公的統計
- 老企第25号(指定居宅サービス等の運営基準に関する解釈通知) Level 1:法令・告示・公的統計
- 兵庫県「重要事項説明書及び契約書のガイドライン(令和6年版)」複数サービスの同一書面記載の可否・記載上の注意 Level 1:法令・告示・公的統計
この記事の連なり
読み解いた論点 → 現場で試した記録 → そのまま使える道具